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昔の光、今何処
 「三ちゃん農業」などと言う言葉があったことをご存知でしょうか?
 1970年代、日本がまだ右肩上がりの経済成長を続けていた時代に、東北や北海道の農家の当主たちが秋の収穫作業が終わった冬場に季節雇用の労働者として、主に関東や関西の建設現場に働きに出かけました。
 世は経済成長の真っ只中、今では想像がつかないほどの労働者不足、雇用期間もだんだんと長くなり、低い農業所得よりは建設現場などで働く収入の方がはるかに実入りが良い現実もあって、季節雇用から通年雇用に変って行く人々も少なくありませんでした。
 父ちゃんは遠い都会の建設現場で働き、本来生業であるべき農業は、爺ちゃん、婆ちゃん、母ちゃんの「三ちゃん」でやる、いわゆる「三ちゃん農業」の出来上がりでした。
 しかし、農家の暮らしをトータルで見れば、家計は改善されても、子どもの教育を初め家庭生活全体には少なかぬ歪も生み出しました。
 1974年の警察白書は、「蒸発」と言われる動機、原因とも不明な家出人が9000人にも上っていることを明らかにしました。
 これらの現状を受けて、テレビ局も競うように人探しの番組を放映し、「お父さん、帰ってきて!」と呼びかける子どもの姿が茶の間の涙をさそうなどの現象を生み出しました。
 写真を撮り始めて、まだわずかな期間でしかありませんが、水田地帯でも酪農地帯でも至るところで廃屋があり、朽ちかけたサイロなどを見かけてシャッターを押しています。
 雪に埋もれた廃屋や崩れ落ちたサイロのすべてが「人間蒸発」など負の原因だけとは思いませんが、そこからは決してプラスのイメージが浮かばないのは、私の思い込みのせいばかりではないと思います。
 屋根が剥がれ、窓ガラスが破れた廃屋、すでにその屋根さえ無いサイロにカメラを向けていると、かつての暮らしのイメージが脳裏をかすめます。
 雨月物語「浅茅が宿」の宮木のような奥方が今でも主の帰りを待って、ここに生き続けているような気持ちになるときがあります。

  <写真をクリックすると大きくして見ることが出来ます>
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 この廃屋は、手入れの行き届いた畑の真ん中にあり、時季が来れば、辺りは青々とした麦畑か大豆の畑に変ります。
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 人が住まなくなってから何年経ったらこのような姿になるものなのでしょう?そんなに遠くない過去に、この屋根の下で愛を育み、夢を結んだお方もいたはずなのですが…
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 大きな作業棟を従えたブロック建築の母屋は、瀟洒な窓枠、庭の鬱蒼たる植え込みなどから、ここの住人の人柄が偲ばれるようです。
 これを建てたお方は、健在であられるか?否か?

※ 上に掲載した3枚の写真は、いずれもイメージとしてのものであり、本文とは一切関係がありません。 
 
 
by ebataonnzi | 2010-03-11 21:43